ソフトウェアサンプラー 導入記

※こちらの記事は、既に Steinberg The Grand(2009年夏にVer.3が発売されるようです)、TASCAM GigaStudio とも販売終了している現在、内容が古くなってしまっており役に立たないと思いますが、ご参考のために残しておきます。また、リンク先が消滅している場合がありますのでご了承下さい。

リアルな音色で発音する音源を求めていくと、どうしてもソフトウェアサンプラーに行き着く。ところがハードウエア音源と違い、満足に音を出すまでがなかなか大変だ。
私がソフトウェアサンプラーを導入した際に苦労した点などを纏めてみた。

Steinberg The Grand

これはソフトウェアサンプラーとは違ってVSTインスツルメントというカテゴリである。しかし、発音方法自体はソフトウェアサンプラーの動作そのものといってよいと思う。デモを聴いてそのリアルさに吃驚して即、導入した。

まず、Macintoshへインストール

はじめに同社のCubaseVST32を導入済みだった愛用のMacintoshにインストールした。 インストール自体は何の問題もなく終了。VSTインスツルメントのコンソールからThe Grandを選択するとロードがはじまるが、これにはかなり時間がかかる。音色ファイルだけで約1.3GBもあるので仕方がないのだが、すぐに音出し出来ないのは結構辛い。しばらく待ち、やっとロードが終わり使える状態になってMIDIキーボードを弾いてみると、鍵盤を押してから音が出るまでに相当時間がかかる。レイテンシー(遅れ)である。これではリアルタイム演奏には全く使えないので、ホストアプリケーションやサウンドカードのレイテンシーに関する項目を設定し直して再起動。もう一度演奏してみるとレイテンシーはほぼ問題なくなったが音飛びが凄い。VSTパフォーマンスのCPUメータが振り切ってしまうし、音を出すたびにハードディスクにアクセスするので盛んにキュルキュルという音を立てている。相当ハードウェアに負担がかかるようだ。リアルタイムでは無理なのでMIDIファイルをCubaseに読み込ませてAIFFファイルを書き出してみる。書き出したファイルを再生してみるとやはり音が飛んでいる。ファイル書き出しの場合はマシンスペックが低くても実用になるかと思ったが結局こちらもダメだった。ちなみにMacintoshはOS 9.1、CPU G3 400MHz、メモリー272MBである。実用するにはこれの3倍くらいのCPU能力がないと無理だと思う。Macintoshでの使用を諦め削除決定!

次に、自作PCにインストール

CPU Celeron 700MHz、メモリー512MB、OS Windows98SEの自作機にインストール。こちらのホストアプリケーションはCubasisVST(CubaseVSTのライトバージョン)である。最初、サウンドブラスター互換のオンボードサウンドカードでやってみたが、レイテンシーが大きくて使い物にならない(レイテンシーを下げるドライバーもない)ので、新たにASIO対応のRME 96/8PSTカードを購入した。RMEではレイテンシーも合格でなかなか快適だが、やはり若干の音飛びが発生する。WAVの書き出しでは音飛びも無く、取り敢ず何とか使えるようになった。しかし即興ヲタクの私としてはどうしてもリアルタイムで鳴らしたいし、高品位なリバーブもかけたい。そこでCPUは今のマザーボードで使えるFCPGAタイプのPentium3 1GHz、ホストアプリケーションは波形編集もにらんでNuendoを導入することにした。その結果、かなり快適になった。音飛びも、激しいクラスタが鳴るところで若干出る程度で、無理なことをしなければ全く問題なくなった。また、Nuendoのリバーブも高品位でファイルベース処理できるところもありがたい。The Grandを使うためには、CPUに関してはPen3 1GHzが最低ラインではなかろうか。 また、音を出す際にはハードディスクに頻繁にアクセスするので高速のハードディスクも必要になる。

The Grandをリアルに鳴らすには

The Grandが特にリアルなのは音が長く伸びたときにグワーンという音の膨らみが再現されるところで、これは今までのハードウェア音源では遂に聴くことが出来なかったものだ。また設定によってダンパーが弦に降りる音や、弦の共鳴まで再現できる。こういった特徴を生かすためにリバーブはあまり深くかけないほうがいい。Nuendo Reverbでいえばdry-wetの値を0.20〜0.24位にすると、さっぱりとした残響効果でなかなか好ましい。この時The Grandのアンビエンスの設定を無効にせず20〜30%位に設定すると雰囲気が更に良くなる。弦の共鳴を強くすると不自然になるのでこの値も20〜30%位がいいだろう。他のMIDIピアノで演奏したデータや打ち込みの標準MIDIファイル等を鳴らすときにはベロシティーの調整が必要になるが、これは耳で聴きながら細かくベロシティーのカーブを調整していく。若干強めに鳴るようにしたほうがリアルに響く。

The Grandの問題点

音色については殆ど文句がないのだが動作に若干問題点がある。以下、思いつくまま書き出してみた。

●ペダルで長く音を延ばすと一瞬だがザザッというかなり強烈なノイズが出ることがある。これはとても耳障りで、しかもレベルも大きいので要注意だ。これはリアルタイム演奏以外、つまりWAVファイルの書き出しでも発生する。このノイズを避けるためには今のところ頻繁にペダルを踏み替えるしかないのだが、曲想によってはどうしても踏み続けなければならない場合もある。運がよければノイズなしでいけるので実際の結果で判断するしかない。恐らくバグだろうが早急に解決されることを望む。
●ダンパーの音をONにすると一音一音にパチパチというノイズがついてしまう。レベルは低いのだが耳障りである。バグだと思われるが何とかして欲しい。
●The Grandの最大発音数は64だが、これでもまだ足りないと思うことが屡々ある。 64といっても1音で2ボイス使っていると結果として32音しか出ない。最大発音数を越えた場合には最初に鳴らした音から順々に消えていく。最低音だけは残してくれる気の利いたハードウェア音源もあるが、The Grandではこの点全く考慮されていないようである。因にMIDIデータ上で(ある和音を延ばすために)ペダルコントローラを使わずにノートデータそのものを長くしても、その長さに到達する前に何故か消えていってしまう。これもバグであろう。
●調律法には平均率とコンサートグランドチューニングの2種類あるが、平均率の響きははっきり言って使う気にならないほどよくない。殆どの場合、コンサートグランドチューニングを使うことになると思うが、収録時に問題があったのか、何故か中音のEのオクターブがよく合っていない。このオクターブだけはどうしても違和感が残る。私にとってE-durは好きな調性なので(勿論E-durに限らないが)このオクターブを使用することが多い。これはちょっと困りものだ。

※02年8月13日現在の最新バージョンは1.0.2である。1.0.0ではWAVの書き出しに非常に時間がかかったが、1.0.1でこの点が解決されている。1.0.2でも細かいバグが解消されているようだ。

The GrandをCakewalkで使ってみる

NuendoはMIDI編集コマンドを一通り備えていて充分使用に堪えるのだが、元々オーディオのオーサリングを基本コンセプトとして開発されたのでMIDI編集はちょっとやりにくいところがある。MIDI編集用には使い勝手のよいCakewalk Home Studio 2002をインストールしてあるのだが、これはVSTインスツルメントに対応していないので、直接シーケンサからThe Grandを呼び出して使うことが出来ない。そこでネット上で色々捜しているとDXiをVSTiに接続できるDirectiXerというプラグインがあった。早速ダウンロードして使ってみたがCPU能力が不足しているのか音飛びが発生する。現状では使い物にならないが、マザーをPen4用に替えたときに音飛びが解消されるかもう一度試してみたいと思う。

TASCAM GIGASTUDIO 160

ギガスタジオは私にとってまさにWindows系のキラーアプリケーションだ。このソフトは雑誌などでも屡々紹介されていて興味があったのだが、実際にNemesysのデモサイトでMP3ファイルをダウンロードして試聴したところThe Grandのデモを聴いたとき以上に吃驚してしまった。これのおかげ?でMacintoshからWindowsへMIDI環境を鞍替えしてしまったほどである。しかもギガの登場で私はハードウェア音源不要論者?にまでなってしまった(笑)。実際のところハードウェア音源を鳴らす機会は激減しているし、どうしても残しておきたいRoland SC88Pro、M-OC1、Alesis NanoPiano以外の音源は全部処分してしまおうかと考えている。学生時代、YAMAHAのMSXでFM音源ユニットを鳴らして面白がっていた頃を思うと全く夢のようだ。

ギガスタジオはもともとアメリカのNemesys社という開発元の製品である。タスカム・アメリカ社がNemesys社を買収したため国内発売元はティアック社だがユーザー登録などはタスカム・アメリカ社に直接しなければならない。表記も全部英語なので私のような英語苦手人間にはちょっと面倒くさい(^^;。

サンプラーの場合はライブラリが命なのだが、ギガスタジオ用に高品位なライブラリが多数用意されているし、サンプラーのディファクトスタンダードであるAKAIフォーマットも標準でサポートしているので将来性についても不安はないと思う。

ソフトウェアサンプラーの最大のメリットは新たな音色を追加する場合にハードウェアモジュールを増やさなくてもすむことである。ただサンプリングCD-ROMをインストールするだけでよい。使わなくなったライブラリは削除するだけだ。MIDIケーブルを引き回したり高価なマルチポートMIDIインターフェイスを追加する必要もない。またコンピュータ内部だけでミキシングできるので外部のノイズにも強いし、直接WAVファイルに書きだしてちょっと編集すればCD-Rにもすぐ焼ける。
デメリットはハードウェアモジュールと比べて動作が若干不安定であること、高速なCPUと大容量のハードディスク、高性能のサウンドカードが必要になることだが、やはりメリットの方が遥かに大きい。

インストール

インストール自体はごく簡単で不具合が出ることもないと思う。気をつけなければならないことは最初にインストールした情報を元にしてIDが自動的に発行されるので名前、組織名欄は慎重に入力することだ。再インストールする際にはこれらの情報が必要になる。ギガスタジオ160の場合、ギガピアノが標準で付属していて殆ど強制的にインストールされる。ギガピアノといっても実際のファイルサイズは1GBもない。インストールの最後で登録画面になる。インターネット経由で登録するとレジストレーションキーをメールで返信してくる。アップデータのダウンロード等にこのキーが必要になる場合もあるから忘れないように控えておきたい。
インストール後、最初に起動したときにGSIF対応のサウンドカードを検出してドライバがインストールされる。ギガスタジオでリアルタイム演奏したい場合はGSIF対応のサウンドカードが必須になる。このあたりの情報はタスカム・アメリカのサイトに掲載されている。因に RME 96/8PSTカードはGSIF対応であり、リアルタイム演奏も実に快適だ。

ライブラリのインストール

ライブラリのインストールは製品ごとに異なる。ファイルをただコピーすればよいものとインストーラを実行するものがある。いずれにしろ予めライブラリ専用のフォルダを作っておく方が後々管理が楽である。ライブラリファイルの読み込みも思ったより早い。

リソース不足に要注意

Windows98系のOSには常にリソースという問題がついて回る。これはOSの仕様上どうしようもないのだが、容量の大きなライブラリを使う場合は特に注意を要する。実際にギガピアノやギガハープを使ったときにはリソースが30%を切ってしまい最後にはフリーズしてしまった(Windowsを素のままで起動した状態では83%確保してあったのだが)。98系のリソース不足にはメモリ増設では全く対応できない。大容量のライブラリを使用する場合は、メモリ管理が根本的に異なるNT系のWindows2000或いはXPが必要になる。動作の軽い98SEで行こうと思ったがピアノやハープ演奏でフリーズするのは如何ともしがたく、やむなくXPにOSを入れ替えることにした。

重いXP

Windows XPはそれ自体でかなりCPUパワーを消費する。Windows2000よりも確実に重い。Pen3 1GHz程度では全く役不足でPen4 2GHzは必須だろうと思う。XPに変更してからはリソースの問題からは解放されたが、いかんせんOS自体が重いのでより速いCPUがどうしても必要になる。現在使っているマザーはPen3までにしか対応していないので、いずれPen4マザーに変更するつもりだが、XPにはアクティベーションという煩わしい作業が必要なのでちょっと鬱である。

シーケンサとの連携

ギガスタジオはスタンドアローンで動作するアプリケーションだが、シーケンサと連携させて演奏することも出来る。並行して動作させるシーケンサは特に制限がないようだ。作業は簡単で、ギガスタジオを起動した後にシーケンサを起動し、MIDI OUTにギガスタジオのポートを指定すればよい。
ギガスタジオにCPUパワーを多く割り振りたいので、MIDIシーケンサには極力軽いものを選びたい。私はデモで試して一番使いやすかったCakewalk HomeStudio 2002を選んだ。本当はオーディオ機能を省いた、純粋にMIDIだけのシーケンサが欲しいのだが・・・。
余談だが、Cakewalk HomeStudio 2002のMP3ファイル(音質重視モード・128Kbps)への書き出しは秀逸だ。ピアノの鋭いアタックの部分でも圧縮のノイズが殆ど乗ることがない。

(自分のためのメモ)
最近のコンサートピッチは殆どA4=442Hzになっているようで、音源ディフォルトの440Hzとは+2Hz、セント換算で+7.85の差がある。ギガの方で442Hzに設定してもシーケンサを停止させると440Hzに戻ってしまうので、何とかしてMIDIコマンドでピッチを変えようと思ったのだが、今までMIDIデータ上でファインピッチコマンドを一度も使ったことがなかったので困ってしまった。SysExは面倒くさそうなので色々と調べた揚げ句(なかなか該当項目が見つからなかった)RPN#1 value=69に設定するとA4=約442Hzになるということがわかった。

余裕の発音数

ギガスタジオ160は最大発音数が160音なので、1音に2ボイス使っていても80音、3ボイスでも53音とかなり余裕がある。勿論、大編成オーケストラのテュッティではこれでも不足するかも知れないが、ピアノソロでは充分である。実際ギガピアノを演奏してみたが音切れもなく実に快適だ。画面に現在何音使っているか表示されるのも便利である。CPUメータを見ていると意外にCPUパワーも消費していないようだ。尚、最大発音数を減らして、その分安価にした96音や64音バージョンもあるが、少々値は張っても最初から160を選択すべきだ。下位バージョンからのアップグレード価格はかなり高いからである。

付属ギガピアノの音

ギガピアノはヤマハのグランドピアノをサンプリングしている。中高音域が非常に美しく、まさに珠をころがすような音だ。それに比べると低音域は粗く、ズシンとくる重みがない。調律の問題もあるのだろう。オクターブで快く響かない箇所もあるのが残念だ。全体的に見て高低のバランスがあまりよくないので、クラシックのソロには辛いものがある。調律法も何種類か用意して欲しい。中高音域が本当に綺麗なだけに惜しい。


CPUの高クロック化、ハードディスクの大容量化、サンプリング技術等が急速に進み、ソフトウェアサンプラーもすでに実用の域に入っている。音色がリアルになれば創作の意欲もますます湧いてくる。本当に好い時代になったものだと思う。後は作品の質を上げるのが課題だが、実はこれが一番大変だったりする。(^^;

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