これは秋葉原のT-ZONE(昔はトヨムラ無線といいました) の無線機売り場にて中古品で購入したものです。ロッドアンテナに折れはなく、ボップアップレバーも正常に機能します。入手当時は外観が汚れていたのできれいに清掃してからソニーのサービスステーションでオーバーホールして貰いました。もう20年くらい前の事です。
当時のBCLラジオの殆どは、フィルムダイアルの極めて粗い目盛りだけで殆ど勘を頼りに放送局を探り当て、必要であればスケール目盛りの値をメモしておいて再受信時の目安にするというような原始的な選局方法でしたが、本機はそれを革命的に変えてしまいました。多少の計算は必要ですが、メインダイアルをマーカーに合わせた後、中央のスプレッドダイアルで事実上5kHz(ダイアル上の目盛りは10kHz刻み)まで正確に合わせることが出来るので、それまでは全く不可能だった待ち受け受信が可能になりました。このスプレッドダイアルはギア式になっておりバックラッシュもなく非常に快適に選局が出来、手触りが本当にいい感じです。メインとサブにダイアルを分けることによって機構をあまり複雑化させることなく、更にいえばコストを増大させることなく周波数直読を可能にしたアイデアは本当に素晴らしく、無駄な部分が一つもない非常に高度な次元で完成されたラジオだと思います。スプレッドダイアルに負けず劣らずメインダイアルの手触りも大変良く、仮にスプレッドダイアルがなかったとしても、同時期に発売されていた他メーカーラジオの操作感を充分凌駕していると思います。現在のようにコンピューターが発達し、関連チップが安価に入手出来る状況であれば、安物中国製ラジオを例に出すまでもなく、周波数直読など全く造作もないのでしょうが、アナログのバリコンでこの精度を実現したことは本当に称賛に値すると思います。当時のソニーにはこのようなエポックメイキングな商品が沢山ありました。ICF-5900の発売は、ライバルメーカー松下電器を大いに刺激してクーガ2200開発の端緒となりました。そのお陰で当時の我々は幸いにもICF-5900とRF-2200という至宝をリアルタイムで手にすることが出来たのでした。
このラジオを実際に操作して感じた事は、兎に角選局が楽だという事です。これなら当時は夢だった待ち受け受信も確実に出来る筈です。クーガ118で苦労してチューニングしていたのは一体何だったのか、ラジオを買うのをもう少し待てばよかったと正直思いました。(笑) 自分にとっては初めてのダブルスーパーで感度の高さにもビックリです。その高感度ぶりは最新のラジオ、例えばICF-SW7600GRと比較しても全く見劣りしないどころか、バリコン式ということもあって、どうしても内部雑音が出てしまうPLLシンセサイザー方式よりもクリーンで聴きやすく、本機の高性能ぶりを体感できます。ICF-5900の時代に既にラジオの感度は頭打ちになっていたとしか言いようがありません。さすがに一世を風靡した名機だけのことはあり、持っていて損はありません。音質については、低域は充実していますが高音が若干弱いようで、明瞭度が不足気味なのが玉に瑕です。ラジオ付属のBFO(SSB受信)に触れたのも実はこれが初めてで、安定感はもう一つですが、ブレのないスプレッドダイアルがファインチューニング(BFOピッチコントロール)の役割を果たすので充分実用になります。最近はX-tal Markerの出力が弱くなってきたり、フィルムダイアルの周波数ズレ、バンドセレクターの接触不良などが目立ってきたのでいずれ修理しようと思っています。これからも長く使っていきたい非常に優れたラジオです。
【追記】 人気の高い中国製短波ラジオDEGEN社DE1103を最近(といっても既に5年くらい前)入手しましたのでICF-5900と感度などを比較してみました。短波帯は殆ど互角で中波帯は5900の方が高感度でした。SSBの復調は1103の方が良好(安定)でしたが、製造されてから30年以上経過している5900の受信性能は思った以上に高く、(中古品の場合はトラッキング調整は必要ですが)現在でも充分第一線で使う事が可能です。
2015年11月13日更新