ナショナル RF-2200 (COUGAR クーガ 2200)

この機体はネットオークションで入手したものです。これらBCLラジオの多くは当時の少年(子供)達が弄り倒しているのでなかなか綺麗な物は残っていないのですが、前オーナーさんが大切に扱ってくれていたため新品同様とまではいきませんがアンテナ端子の錆びもなく非常に状態が良く、受信性能もほぼ当時の状態を維持している感じです。実に有り難いことです。

これはソニーのスカイセンサー5900とともに「家電製品としてのBCLラジオ」はもとよりアナログ式ラジオにおける最高傑作の一つだと思います。ICF-5900の革命的なスプレッドダイアルに水をあけられてしまった松下電器(現パナソニック)の失地回復への意地のようなものを感じます。そのおかげで通信機並みの機構をもった凄いラジオが出現しました。本機の最大の特徴は、特別な通信機器にしか使われない特殊な周波数直線バリコンを民生機に採用することにより、短波帯で等間隔のダイアル目盛りを実現したことです(通常のラジオのダイアルは低い周波数程幅が広く、周波数が高くなるにつれて段々目盛りが狭くなって来るのです)。このダイアルはマーカースイッチを押し下げている間、発振周波数の該当する目盛りの位置で自動的に止まるようになっており、その位置でマーカーのゼロビートをとりダイアルを校正します。また、クリスタル・マーカーの発振ポイントを500kHz毎だけではなく125kHz毎に用意して非常に細かく周波数を校正出来るようにしたため(スカイセンサー5900は250kHz毎)、どの周波数帯でも極めて誤差が少なく正確に周波数を合わせることが出来ます。最小目盛りは10kHzですが事実上5kHzまで読みとることができ(短波放送の周波数は最小単位が5kHzなので)、まさに、ここまでやるかという程の念の入れようです。

スカイセンサー5900は設計の妙、つまりアイデアの勝利でしたが、このクーガ2200はどこまでも正攻法で突き詰められ極めて真面目に作られているので私はどちらも大好きでとても優劣をつけるわけにはいきません。家電製品としてのアナログ式短波ラジオはこのRF-2200とICF-5900がとどめを刺し、一つのピークを迎えます。アナログ式ラジオの性能のピークはBCLブームのピークとほぼ重なっており、全BCLが夢にまで見たデジタル表示で周波数直読できるラジオが登場した頃には既にブームの凋落が始まっていました(八重洲無線[スタンダード〈マランツの通信機部門〉を吸収合併して一時期はバーテックス・スタンダードと改称していましたが、2012年に元の社名に戻ったようです]、トリオ(ケンウッド)、井上電機製作所(ICOM)などの通信機メーカーが発売していたアマチュア無線用の受信機には予てからデジタルカウンター付の製品がありましたが大変高価でした)。松下はクーガの後はプロシードとペットネームを改めデジタル表示方式に移行していき(最終的には台湾製のアナログラジオRF-B11で終焉を迎えます)、ソニーはVoice of Japan (ICF-2001、これも当時としてはそのハイテクなスタイルがかなり衝撃的でした。当時のNHK放送博物館(芝田村町=愛宕山)にはICF-2001の巨大デモ機が展示されていて、勿論受信機能や各ボタンはそのまま再現されていました)から始まるPLLシンセサイザー方式の液晶デジタル表示になり、その系譜は現在のICF-SW7600GR(現在の愛用機)にまで続いていきます。ここからは余談になりますが、巨大デモ機といえば、当時東京立川のデパート高島屋の家電売り場にあった中学生の背丈ほどもある(当時はチビだった私の背より大きかった(笑))巨大スカイセンサー5800(ICF-5800)〈これも各種スイッチやダイアルが本物と同じようにちゃんと機能して受信できました〉や、同じ立川駅北口の大通りにあったソニー専門店の店頭に飾られて音楽を鳴らしていた巨大ラジカセCF-1980(初代機、カセット部分もちゃんとくるくると廻っていました)を今でも鮮明に覚えています。当時はメーカーも宣伝に熱を入れていただけでなく洒脱なセンスがありました。本当にいい時代でしたね。

話を元に戻しまして、このクーガ2200はラジオ本体だけではなく、アンテナカップラー、周波数直読マーカー、専用ラック、タイマー、スタンドライト(照明器具)、ヘッドフォンなどのオプション商品が充実していて、それらを買い足して一つのシステム(シャック≒自分専用の受信室)を組み上げる楽しみがありました。我が家のように狭い兎小屋では長大な逆Lアンテナを張る場所がなかったので、このラジオのオプションとして用意され同時発売された垂直アンテナは欲しかったですね。余談ですが、同じ頃に売っていた、アンテナワイヤーの途中にコイルを仕込んだ短縮型(5m程の長さで張れる日本アールエーケー社のリスナー1など、他社からも同様の製品が発売されていました)のアンテナも欲しかったです。いずれにしても細部を見ていくと設計者の熱意と創意工夫が随所に感じられますし、このラジオの設計者は真空管時代からのノウハウを積み上げていた筈で、まさに家電アナログラジオの集大成といった趣があります。DEGEN DE1103の項目で批判的に書いた「文化が感じられない」というのはまさにこの事で、容易に入手出来る半ば完成された各種機能を持つ高性能ICを組み合わせて如才なく作っているラジオとは設計思想の根本が違うと感じる訳です(当時、このような精密なラジオを殆どディスクリート回路で組んでいるという事は至極当たり前でした。それ故、本体やカタログにはICを幾つ使っていると誇らしげに書かれていたのです)。当時の日本メーカーは実に偉かったと思います。またこのように熱い思いの籠もったラジオを当時リアルタイムで手にすることが出来た我々は本当に幸福でした。また、中波やFMのおまけで短波も受信可能といったごく普通の普及品ラジオから始まり、短波受信の性能を飛躍的に向上させ遂には周波数直読も出来るラジオの出現、更にはPLL方式によって従来のバリコン式では不可能だった極めて安定した受信を実現したラジオへの変遷をリアルタイムでこの目で見ることが出来、改めてメーカーさん、企画者さん、設計者さんには感謝したいと思います。

クーガ2200はダブルスーパラジオでもあり感度も最高の部類に入りますが、ダイアル機構が複雑になってしまったからかSSBの復調はかなり難しいです。アマチュア無線等の受信は、選局ダイアルの回転スピード切換があるにも拘わらず、おそらくギア機構のためにダイアルが比較的重く、最適点に合わせるのに非常に苦労します。然も、最適点に合わせてもアナログラジオ故のドリフト(時間の経過とともにだんだん同調周波数がズレていく現象)のため、常に細かい同調周波数の調整が必要になります。決して復調できないわけではありませんが、スプレッドダイアルが軽快に廻せるICF-5900に比べると、最適点の維持が非常に厳しく殆ど実用にならない点だけが本当に惜しいです。別途、BFOピッチコントロールダイアルを装備すれば簡単に解決出来ると素人の私は考えますが、そうすると部品や調整箇所が増えてコスト(販売価格)が上がってしまい、また微妙な部分故に故障率も上がってしまうため、営業戦略上とても5900には対抗できなかったでしょう。このように、コストの制約でどうしても省かざるを得ない機能もあったとは思いますが、手抜きは全くない製品ですし、不満は全然ありません。まるで通信機を触っているように精密なメカニズムを操作する楽しみが堪能出来る本当にいいラジオです。


雑誌「ラジオの製作」(電波新聞社)1976年6月号(当時購入して唯一手元に残っている本)の記事
写真に写っている山田耕嗣さん(2008年逝去)、皆川隆行さん(2000年逝去)は既に故人です。

2015年12月22日更新